旅をしながら働いている「IT弁護士」にきく「ワークアズライフ」の働き方とは(2)

今、必要だと感じる働き方の選択肢について

松永:藤井さんが「今、必要だと感じる働き方の選択」にはどのような働き方が挙げられますか?

藤井:一人ひとりが自分の得意なスペシャリティを高めていく働き方ですね。会社に所属してその会社の仕事だけをしてその会社に最適化するのではなくて、自分のスキルを活かして複業をするとか。あるいは、どこの会社にも所属せず、フリーランスとして働いて、複数の会社からプロジェクト単位で案件を受注する働き方も増えていくと思います。

松永:その働き方を選んでいる人は、実際に増えてきているのでしょうか?

藤井:ここ最近増えてきています。クライアントから、業務委託に関する相談が増えてきました。正社員として雇用して仕事をしてもらうではなくて、特定のジャンルに優れたフリーランスの方に業務委託で仕事を依頼したいという話です。クライアントは、必要に応じて「案件ごと」に「期間限定」でスペシャリストとの契約を結び、稼働時間ではなくアウトプットで評価する仕組みをとるようアドバイスをしています。

4.jpg

松永:稼働時間で評価をしないということは、仕事をいただいた後、その仕事を実行する時間を自由に選べるということですね。

藤井:そうです。時間をただかければいいということではありませんからね。時間をどれだけかけても成果がなければ契約は切られますし、時間をかけなくても成果さえでれば契約は継続します。たとえば、仕事ができる人は複数社から同時に依頼を受けて、うまく管理をすることによってそれぞれで成果をだしていけます。実際知人で、1社と月額50万円でPRのコンサルティングの契約を結び、3社から受注して仕事をしている人もいます。

松永:そうしていくと、どんどん特定の分野でスペシャリストになれますね。

藤井:そうですね。やりたい仕事だけを伸ばしていけます。そういう働き方は今後増えてくると思います。

松永:ワークアズライフの働き方をしていきたいとなったときに、スペシャリストとしての仕事を選択したいと考えている人は、まずなにから始めたらいいでしょうか?

藤井:まずは、当然スペシャリティを持つことが必要です。スペシャリティがなければ、いきなりフリーランスでやっても食べていけないですから。だから、絶対これは誰にも負けないというものが必要です。

5.jpg

松永:スペシャリティをつくるのは、とても難しいように感じるのですが、もし私がスペシャリティをこれからつくろうとしたときに、どうしたらいいでしょうか?

藤井:実は、この質問はよく聞かれます。スペシャリティをつくるときは、1つだけに特化して考えるのではなくて、2つ、もしくは3つの得意なことを組み合わせるといいです。そうすると、たとえば1つ1つのスキルが10人に1人が持っているスキルだとしても、それが3つ合わさることによって1000分の1の人材になれます。僕の場合、「弁護士」(=法律や紛争に詳しい)と「IT」(=ITの用語や仕組みに詳しい)と「ビジネス」(=ビジネスに詳しい)を掛け合わせることによって、競合がほとんどいなくなりました。

松永:なるほど。では、最初に自分が得意としていることを複数組み合わせてスペシャリティをつくり、一つひとつの案件で成果を出しながらスキルアップを目指していくことによって、フリーランスでワークアズライフの働き方を選べるというわけですね。

藤井:そうですね。とくにコンサルティングなどアドバイスをする仕事がベースだと、メールやチャットで仕事ができるので、働く場所の制約も受けにくいです。僕はまさにアドバイスベースなので、旅をしながら働けるというわけです。

「アドバイスをする仕事」で注意をしなくてはいけないのは、「ただの詳しい人」になってしまわないことです。知識があるだけのアドバイザーだと、ネットの情報や今後出てくるであろうAIには勝てません。ネットには玉石混交とはいえたくさんの情報がありますし、今後はAIに質問すれば的確な答えが返ってくるようになるでしょう。そうなると、アドバイザーとして必要なのは、正確な情報をたくさん持っているということだけではなくて(それは当然の前提として)、「クライアントの悩みを炙り出して、言語化して、明確化して、それに対して提案をするスキル」です。

松永:具体的にはどんなシーンを思い浮かべればいいでしょうか?

6.JPG

藤井:マーケティングの世界で有名なのが、ホームセンターにドリルを買いにきた人の話ですね。ここで、ドリルを買いにきたクライアントが本当はなにを求めて買い物にきているのかを考えます。すると、ドリルが欲しいのではなくて、「ドリルを使用した結果にある、「穴」が欲しい」という要望があることが分かります。求めている結果が「穴」なのであれば、道具はドリルではなくてもいいことになりますよね。だから、クライアントがドリルを欲しいと言ったときに、ただドリルを提供して終わりにしてしまったらダメです。どうしてクライアントはこの商品を欲しがっているのかをヒアリングする必要があります。悩みを炙り出して、言語化して、明確化して、それに対して提案をするスキルが必要になるわけです。

たとえばですが、ドリルを買いにきたクライアントが「子どもの夏休みの工作の手伝いで、ゴミ箱をつくるために木をネジ止めする必要があるから、ネジ穴を開けるためにドリルが欲しい」場合、僕だったら「子どもの夏休みの工作を手伝うことで、親として格好いい姿をみせたい」という気持ちがあるのではないかと考えます。それであれば、せっかくドリルを買うのだから、本格的な本棚でもつくってみたらどうかと提案します。提案がいいと思っていただけたら、本棚にオススメの木材・塗料・工具を紹介して、工作セットを一式買ってもらいたいですね。ヒアリングを深めていくだけで、クライアントが結果的に得られるものが大きく違ってきます。

松永:こちらのクライアントは、想像以上のものを手にいれて意気揚々と自宅に帰ることができるわけですね。確かに、「クライアントの悩みを炙り出して、言語化して、明確化して、それに対して提案をするスキル」は、AIやネット検索に勝るポイントになるのだなと思いました。そのほかには、どんなスキルが必要なのでしょうか?

藤井:コミュニケーション能力も重要ですね。とくに僕はチャットベースでコミュニケーションをとっているので、テキストだけで相手の言わんとしていることを把握し、そしてこちらが伝えたいことをわかりやすく正確に伝えることが必須です。いかにシンプルかつロジカルに伝えるかということを大事にしています。

松永:チャットでのコミュニケーションは、面と向かっていない分気をつけなくてはいけない点もありますよね。チャットコミュニケーションはどのように鍛えていけばいいでしょうか?

藤井:チャットコミュニケーションは結構難しいですね。高いライティング能力とリーディング能力を要求されますから。鍛えるためには、常に使い続けて慣れていくのがいいです。ビジネスの話をする相手に限ったことではなくて、家族やパートナー、友人などとコミュニケーションを取る方法として取り入れてみると自然と鍛えていけると思います。

チャットコミュニケーションによってクライアントの要望を理解して課題を解決していく能力は、これから「ワークアズライフ」の働き方をする方にとって、必要なスキルになります。まずは身近な人とコミュニケーションを取り、相手のニーズを引き出すところから徐々にビジネスシーンに移行していくといいと思います。

7.jpg

***

取材をさせていただき、改めて自分はどのように「仕事」と向き合いたいのかを考えたくなりました。
人それぞれ価値観はさまざまであるからこそ、自分で決めた仕事との向き合い方を信じて、それを実行する力がこれから必要になってくるのではないかと思います。

取材にご協力いただきました、全ての皆様に感謝いたします。
最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!

次へ

会社をあげてテレワーク実験を実施しました!

前へ

旅をしながら働いている「IT弁護士」にきく「ワークアズライフ」の働き方とは(1)