LivingAnywhere Commonsでテレワークをしながら、色んな場所を旅してみる。〜会津磐梯編(3)〜

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「LivingAnywhere Commons会津磐梯」で滞在した3週間の間、ほとんど毎日と言っていいほど建物の敷地内で何らかのイベントが開催されていたように思います。

その中で、地元の名士の方が発案されたらしい内輪の会合があったのですが、そこには超有名グローバル企業の方なども多数参加されていたようでした。LAC会津磐梯が持つ機能がワーケーションに最適化されているということで、地域の活性化に一役買いたい人たちが全国各地から集まって、お互いの知見をシェアし合いながら、交流を深めていたようです。

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コミュニティマネージャーさんのお話では、おそらく僕たちのような一般人が普通に過ごしていると決してお目にかかることができないような超VIPの方たちが集まるので、ぜひ名刺を交換するなどして話しかけたら良いよ、とのことでした。

ただ、なにぶん僕がそういうのがあまり得意でないことと、会津磐梯で過ごしていた時期の仕事が多忙を極めていて、仕事以外のことに時間やマインドを割くゆとりがなかったことから、日中のオンタイムに開かれていたイベントに積極的にコミットしたり、登壇者の方にご挨拶するということは叶いませんでした。

したがって、それがどんなイベントでどういう趣旨で開催されていたものなのかの詳細は、あまりきちんと把握してはいなかったのですが、それでも、時々聞こえてくる(決して立ち聞きしていたわけではありません)お話には、結構興味深いものもいくつかありました。

ワーケーションの効用

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そんな中でも、この時のイベントでお話されていた某有名企業の人事の方のお話は少し印象に残っています。

アメリカの大学の心理学修士でもであるというその女性のお話によると、人は自然の中にいると前頭葉の働きが変わるんだそうです。前頭葉は物事を合理的に判断し、行動する機能を司り、記憶等人間の高度な社会活動を可能にする脳の領域です。

ここのパフォーマンスが上がることは、そのまま生産活動の、つまり仕事のパフォーマンスの向上につながるといいます。そして「自然が豊かな場所でのワーケーション」がまさにこの前頭葉の働きを活性化するということが科学的に証明されているという知見から、ご自身が取締役を努められている会社でもいち早く「どこでも、好きな時に」働くことができる仕組みを構築されたそうです。

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この「自然の中にいることで、生産性が上がる」という部分が、そのときの僕の状態をまさに的確に表してくれているようだったので、とても印象に残っています。この時の僕は先にも述べた通り、多忙を極めていました。目の前に山積した膨大なタスクに、普段の僕であれば途方に暮れているところでした。

しかしながら、この緑の豊かな会津磐梯の地で、僕の集中力とパフォーマンスは(自分で言うのもなんですが)かつてないくらい高まっていたと思います。自分が関わっていたプロジェクトが大詰めを迎え、膨大な量の情報を取り扱わなければいけない状況の中で、与えられた8時間という所定労働時間をフルに集中して過ごすことができていたのは、まさにこの会津磐梯の自然の賜であると思っています。

その人事の方のお話によると、人間はその視界に10%程度の「緑」が含まれていることで、前頭葉の働きが活性化し、頭脳労働における生産性が最高潮に達する状態を作り出すことができると言います。

つまりこの場所に溢れる緑や自然そのものが、心身ともにリラックスし、かつ集中した状態をもたらしてくれるということです。そしてぼくがLAC会津磐梯を訪れた時期は夏から秋へと季節が移り変わっていく最高の時期でした。

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あの困難な局面を乗り越えるために会社が用意してくれた最高の環境で日々働くことができた自分は本当にラッキーだったと、思わずにはいられません。

パフォーマンスは、上げるものではなくて上がるもの

僕は41歳の時に日本を出て世界を旅するようになりましたが、それまで日本で十数年間従事した仕事というのは、毎朝気合を入れて、気持ちを高めてから取り組まなければいけない種類の仕事でした。

毎朝強めのコーヒーを気付けに飲んで、近所のカフェで少し気持ちを高めてから一時間ほどかけて電車に揺られて出勤する。僕にとって職場というのは常に戦場でしたし、朝のルーティーンは、自分のその日一日の仕事のパフォーマンスを上げ、自分自身を職場という環境に最適化するための儀式的な意味合いを有していました。

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けれどそこには、仕事とプライベートの間の断絶があったのも事実です。そのようなオン・オフの切り替えを通じて、自分自身の「モード」を変える。

仕事が終われば、好きな音楽を聞いたり、趣味のランニングをしたり、好きな音楽を聞いて過ごしました。きちんと「オフ」の時間を設けることで、次の日のオンの時間を乗り越えられるように自分自身を整えていくということです。

それはそれで素敵な時間の使い方ではあったけれど、この時会津磐梯でお話を聞いて、そうではない働き方、時間の過ごし方がある、ということに思いが至った。今はそんな気がしています。

緑の豊かな場所が必然として人間の認知機能のパフォーマンスを上げるということがあるのなら、パフォーマンスは、昔僕がしていたように無理して「上げる」ものなのではなくて「上がる」ものなのかも知れません。

自然のリズムに合わせる暮らし

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会津磐梯の夜はとても早いものでした。

日が暮れれば、周囲には一本の水銀灯があるだけで、夜道は暗く、とても出かけられるものではありません。出かけたところで、周囲にはお店らしいお店もなく、そもそも出かける意味がありません。

そんな場所では、日が暮れればおしゃべりすることと寝ることくらいしか、することはなくなってしまいます。辺りは季節柄、鈴虫が鳴いていて、夜風はとても心地よく、この地方に訪れる短い秋の到来を感じさせます。その場にいながらにして至福の時間を過ごすことができる。そのことも、LAC会津磐梯の魅力の一つでした。

日が暮れればご飯を食べて、少しおしゃべりを楽しんだあと床につく。たまに、地元の美味しい日本酒があって、そういう時はみんなで少しずつそのお酒を分け合いながら、ちょっとした身の上話に花を咲かせる。

食べるものも地元の農家の方の有機栽培の野菜が中心でしたし、夜は早めに就寝するので、朝はほとんど日の出とともに目が覚めます。そういう生活を3週間近く続けたことで、心身ともに整えることができました。

自然のリズムに合わせて生活のリズムが規定されるような暮らし方。それが日中の生産活動に及ぼす多大な影響を実感した時、「パフォーマンスは上げるものではなく、上がるもの」というのが、ますます腑に落ちたような気がしています。

地元の食材をプロのシェフが料理する

滞在3週目、その日は朝からワークエリアの横にある広大な厨房がずいぶん賑わっていました。もともと宿泊施設であった場所なので、きちんとした設備が整った、プロ仕様の調理場が、このLAC会津磐梯の建物の中にはあります。

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厨房は仕事の場とは直接関係がないので、あまり気に留めていなかったのですが、その日は朝からなんだかその厨房に人がたくさん集まって、何やら作業をしているようでした。聞けば地元の農家の方が丹精込めて育てた野菜や、地元で取れたジビエなどの食材を、外国人のプロのシェフが調理するという企画だったようです。

地元の良さを内外にアピールするための取り組みのよう。

お昼が近づくにつれて、いい匂いがワークエリアにも漂ってきます。程なく、テラスに設えられた特別席で、シャンパンを片手にちょっとしたランチパーティーらしきものが始まりました。

「杉原さんもどうぞ」そういってお声がけ頂いたのですが、滅相もないという感じしかしなかったので、お断りしていました。「いや、実はもう用意しているんですよ」。いわゆる「余りもの」を少しこぶりなお皿に上品に盛り付けてくださった見習いのシェフの方に言われるままに案内して頂いたテラスの気持ちのいい空間で、思わぬご相伴に預かることのできたその時の昼食がこちらです。

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僕は野暮な人間なので「あ、お金払います!いくらですか」と言って、ちょっとした失笑を買ってしまったのですが、その価値が十分にあると思われたこの食事も、LAC会津磐梯での忘れられない思い出の一つです。

最後の夜

地元のクラフトビール製造業者の方で、僕もとても仲良くさせていただいていた方が、生ビールサーバーをもってきてくれました。「これで飲むとホントにうまいから」。極上テラス席に設えてくれたサーバーからパイントグラスに注がれたビールはとても上品な味がして、特にライティングか何かの企画で訪れていた女性陣にとても好評なようでした。

そんな自慢の生ビールを、僕と塩田さんの滞在最終週の金曜日にもってきていただき、入れ違うようにしてここLAC会津磐梯を訪ねてこられた方たちと、夜遅くまでビールを片手に静かに語り明かしたのもまた、とてもいい思い出です。

旅の醍醐味は、普段同じ場所で生活しているだけでは決して出会うような人との出会いと交流です。そういうのは、海外を旅していないと経験できなことだと思い込んでいた僕ですが、このコロナ禍で多くの日本人が海外から引き上げてきた今、それでも「どこか遠くへ行きたい」と願うある種の人々が、コロナ禍を避けるという名目で都会をはなれて、こうやって静かに時間を共有する。

そういうことの奇跡もまた、とっておきの贅沢であり、旅するように働くことの醍醐味なのではないでしょうか。この場所に偶然集うことになった方々と、次にまたどこかで出会うことができる可能性を静かに祈りながら、磐梯での最後の夜は更けていきました。

出発

旅をしながら働くということは、どれだけ気に入った場所に巡り合ったとしても、いずれはそこを離れる必要があるということを意味しています。当たり前のことです。

自然豊かな地域で仕事をすることの効用に気づき、LivingAnywhere Commons会津磐梯がもつ縁側的な機能に気づいてからというもの、僕はすこしずつ、この場所から離れたくなくなっていきました。

そしてその縁側に集まる通りすがりの人たちと共有した時間のこと。

それは長い人生に置き換えてみればいわば「一瞬」のようなものであり、次に訪れた「LivingAnywhere Commons八ヶ岳北斗」の満天の星空を流れる流星のようなものだったのかも知れません。

けれどそういう奇跡のような瞬間に、いつでも出会うことができそうな場所。それが僕にとってのLivingAnywhere Commons会津磐梯という場所でした。

だからこそ、ここにずっと留まっているのではなく、次に訪れる人にその奇跡のような時間を経験してもらうために、僕は席を空けなければいけないんだと、そんなことを自分に言い聞かせながら、早朝の凛とした空気の中を、僕は再び翁島駅に向かって歩き始めたのでした。

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