LivingAnywhere Commonsでテレワークをしながら、色んな場所を旅してみる。〜伊豆下田編(2)〜

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「杉原さんですよね?」

お昼休みを終えて、レジデンス(住居部分)である造船会社の社員寮から再び徒歩2分の場所にあるワークスペースに戻ろうとしたとき、一階のコミュニティスペースでショートヘアの快活で、気さくな感じの女性に声をかけられました。

実はその前の週に、僕はワークスペースがある「NanZ VILLAGE」(詳細は前回の記事をご覧ください)内にあるレストラン「Kanz Kitchen」のお手伝いをさせていただいてました。「コモンズマッチin 下田」というイベントの一環で、下田にある地元のお仕事を体験する企画に申し込んでいたのです。

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大学を卒業して以来、実に20年ぶりに、僕は飲食店でアルバイトをしました。僕の当時の役割は皿洗いで、報酬は「まかないごはん」です。当日はお客さんとの交流はありませんでしたが、厨房の中をせわしなく動き回っていらっしゃった地元のシェフの方たちに、本当に仲良くしていただきました。

その時に、僕のここ数年間の経験-41歳の時に一年かけて世界一周をしたことや、そのまま日本に帰らずにセブに住んでいたこと-などのお話をシェアさせていただいたのですが、それが関係者の方に広まったらしく、この日をさかいに、色んな方からLivingAnywhere Commons伊豆下田内で、声をかけていただくようになりました。

コミュニティ・マネージャーの佐藤さん

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先に僕に声をかけて下さったというそのショートヘアーの女性は、「佐藤さん」とおっしゃる、施設に駐在している「コミュニティ・マネージャー」の方で、元は別のところにお住まいだったのが、現地の方とのご結婚を機にこの町に越してこられ、こうしてご縁があって、LivingAnywhere Commonsのお仕事に従事しておられるとのことでした。
「困ったことがあったら、なんでも相談してくださいね!」もうここに来て、何十回かけていただいたかわからない言葉を、その佐藤さんもやっぱり繰り返しかけてくださり、地元のおすすめのお店やアクティビティ、コミュニティ・マネージャーとしてのやりがいや大変さ、といったお話をシェアしてくださったのでした。

佐藤さんの話では、ここ伊豆下田は「ワーケーション」、つまり仕事とバカンスを兼ねてやってくる人たちのことで、ここ数か月間にわかに状況を呈しているとこのことでした。一棟貸しの宿泊施設などは、新型コロナウイルスの影響からか、首都圏ンのコロナ渦を逃れるべく月単位の宿泊申し込みが殺到していて、例年とは比較にならない利益を上げているといいます。

ここ、LivingAnyWhere Commons伊豆下田でも、ワークスペースで、宿泊施設の共有スペースで、色んな場所から来たいろんな職業の人たちが、何気ないやり取りをきっかけに自己紹介をし始め、会話が始まります。

普段、僕たちは知らず知らずのうちに、自分と似たような属性や価値観をもった人たちに囲まれて生活しているか、周囲をそんな人達で満たそうとしながら生きています。

けれどここでは、仕事も趣味も生活のバックグラウンドも、何もかもが異なる人々が集まって、場所と時間とそしてスキルをシェアしている。そんな方々から多くの刺激を受けて日々の活力にできることもまた、ワーケーションやサードフレイス(自宅でも、オフィスでもない場所)で働くことの醍醐味なのかも知れない。そんな事を感じました。

Kanz Kitchenと、ダンさん

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前述の「コンズマッチin下田」と「Nanz Kichin」でお世話になったのが「ダンさん」の愛称で地元の人から慕われている男性で、キッチンでのお手伝いの仕事の間もずっと、忙しい時間の合間を見つけては僕に気さくに声をかけて下さいました。

ここ伊豆下田に来る前、僕は山梨県の富士吉田市という場所に住んでいました。世界一周に旅立つ前は40年以上大阪に住んでいました。ふとしたきっかけで訪れることになった山梨県の富士山がとても美しく見えるその町に魅せられ、いつか機会があればこんな素敵な街で生活してみたい、と思っていたのでした。

その夢はかなったのですが、同時にずっと旅をしていた時の感覚がうずき始めていたのもまた事実でした。富士吉田市で感じたように、また訪れたことのない他の地域の魅力も感じてみたい。

山の近くのあとは、海の見えるところへ。富士吉田市から離れることになった僕は、引き寄せられるおうに、太平洋を目指して南へ南へと向かったのです。

そうしてたどり着いた伊豆半島の南の端のこの町で、出会う人たちが皆さんとても気さくに声をかけてくださることに、最初は驚き、そして徐々にそのことが嬉しくなっていきました。

人の温かさとか優しさに触れるということが、色んな意味で難しくなっているこのご時世に、こういう形で見ず知らずの人と出会い、何気なく言葉をかわし、関係性を築くことができるということ。その温かさに、本当に心が穏やかになれたような気がしています。

それはフィリピン・セブ島で経験した、柔らかで肌触りのいい日本人コミュニティがもたらしてくれた、独特の肯定的な雰囲気にどこか少しだけ似ていて、コロナウイルスに感染することを恐れてずっと自宅で閉じこもっていた数週間前までの僕を、恐怖でガチガチに固まっていたぼくのこころを、やさしくほぐしてくれたような気さえしました。

こうやってまた、人とつながることができたことの感謝の気持ちと満足感で、先日のキッチンでの「労働」の対価としての「まかない」のことを、ぼくはすっかり忘れてしまっていたのですが、ダンさんが僕の顔を見る度に「早くご飯食べに来てくださいよ!うちの翔(シェフの方の下の名前)が健さん(僕の下の名前)にとっておき食べさせるって言ってるんで!」と言って下さるので、ある平日の仕事終わり、キッチンにお邪魔しました。

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そこでいただいた「静岡麦酒」と「カルボナーラ」の味は、ここで経験したことの証明として、本当に忘れることができない思い出の一つになりそうです。そのカルボナーラが今まで食べたどのカルボナーラよりも素晴らしい味がしたのは、翔さんがたっぷりかけてくれたトリュフのせいだけではなかったはずです。

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藤井瑛里奈さんと、with a treeプロジェクト

この場所で経験した素敵な出会いや交流の事を考えるとき、もうひとりご紹介したい人がいます。

藤井瑛里奈さんというフリーランスのデザイナーのその人で、地元の建築会社である「山本建設」が買い取った廃倉庫を「好きなように使っていいよ」ということで始まった「with a tree プロジェクト」の中心人物です。

(詳しくはこちら:https://note.com/lacommons/n/n579f64f9e6a5

あるお休みの日の昼下がり「今日の夕方、with a tree(倉庫の名前)に行くんですけど、一緒にどうですか」とすごく気さくに声をかけていただき、このプロジェクトに参加している人たちと一緒にお邪魔してきました。

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LACから徒歩10分ほど三階建てのその倉庫は、たくさんの小部屋もあって、その豊富にあるスペースを使って、いろんなクリエーターやフリーランスの方が、その想像力を最大限に発揮して「大人の隠れ家」を作るべく、様々なアイディアを出し合っているといいます。

劇団員の方はここを舞台に見立てて演劇をしたいといい、廃材を使って新しいオブジェを作りたい、という方がいらっしゃったり。

説明をしてくれた瑛里奈さんは本当にいつも楽しそうな方で、この「楽しそう」なオーラに惹きつけられて、本当にたくさんの方が下田に集まり、下田の街が持つ魅力に魅せられて、ここにとどまる。そんな人達を巻き込んで、下田の街がどんどん活性化していきます。

「何かアイディアないですか?」と聞かれて、僕は長らく使われていなかった板の間に行き、「ここをヨガとかメディテーション(瞑想)のスタジオにしたらいいんじゃないですか?オンラインだったら、コロナの心配もないですし」といって、今オンラインで習っている瞑想をやってみたりしました。

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前述の山本建築の社長さんと、若い人たちが協働して、新しい何かを立ち上げようとしていること、そしてその原動力になっているのが「おもしろそうだから」というシンプルな感覚であることがなんだかすごく新鮮で、こういう世界もあるんだな、と元気をもらった気がしました。

Nanz Kitchenのスタッフさんや瑛里奈さんにかぎらず、ここLAC伊豆下田で出会った人たちとの交流は、なんだか世界を旅しているときに日本人同士が異国の地で出会ったときに交わす温かさに少し似ているように感じました。

次にいつ会えるかわからない。毎日を淡々と過ごしていると、昨日のように今日があることや、今目の前にあることが当たり前のように思えてきて、今あることに感謝する気持ちも、今を楽しむことも、少しずつ疎かになっていってしまいます。

でも、ここにいる人たちはみんな、とても今を大切に生きている。出会いという一回性の偶然をエンジョイする気持ちにあふれている。それが「ホスピタリティ」として、今目の前にいる人に、とても大切で温かな気持ちを持って接する振る舞いにつながっているのかも知れない。

そんな事を感じながら、その日は床についたのでした。

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