LivingAnywhere Commonsでテレワークをしながら、色んな場所を旅してみる。〜会津磐梯編(1)〜

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8月の終わり、JR磐越西線の「翁島」駅を降りて最初に感じたのは「緑がとても鮮やかな場所だな」ということでした。

周囲を覆う木々や草木の緑、その一つ一つが鮮やかで、しかもどれ一つとして同じ緑がありません。みずみずしさや葉の一枚一枚の質感まで、すべて表情の異なる多彩な緑が見渡す限り辺り一面に広がっている、そういう空間に、翁島駅はぽつんと佇んでいました。

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この駅で降りたのは僕だけで、周囲に人の気配のようなものはありませんでした。いわゆる駅前のようなものもなく、辺りに点在している民家がかろうじて、人間の生活のイメージを漂わせています。

駅を降りて、踏切を北に向かって渡ると程なく日本百名山の一つ「会津磐梯山」が、その美しい姿をたたえて、ある意味で、日本の典型的な、ごくありふれた里山の風景であるといえなくもないこの空間を、ここだけの特別なものにしています。

その会津磐梯山へと続く田舎道を、僕は山の方向に向かってゆっくりと登っていきます。目的地は「LivingAnywhrere Commons会津磐梯」です。

県道7号線を横断すると風景は一変し、よく整えられた一面の田畑が広がり始めます。収穫の時期に向けて、少し頭を垂れ始めた稲穂が端正に並ぶ、よく手入れされた田んぼに混じって、稲穂と同じくらいの高さに白くて可憐な花をつけた植物が植えられているのは蕎麦の畑です。

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夏真っ盛りの伊豆下田から北に向かった僕を迎えてくれたのは、磐梯山から吹き下ろす涼風と赤とんぼの群れで、暑いさなかにどこか秋の気配を漂わせるこの福島県の山の中の静かな町にたどり着いた僕は、まるで季節を先取りするかのように、北へと移動してきたかのようでした。

見渡す限りの鮮やかな緑に囲まれながら、辺りの風景をスマートフォンのカメラに収めていた僕の横を一台の軽自動車が通り過ぎようとして、少し先で止まったあと、助手席のドアが開いて、運転していた男性がおもむろに声をかけてきたのでした。

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「杉原さん!」

いつも「Zoom」でお話させていただいているその男性は「塩田さん」といって、ややもすれば単調になってしまいそうだったこの磐梯町での生活をとても印象深いものにしてくれた方だったんです。

「はじめましてなのに、初めてあったような気がしない」というのはWITHコロナ時代によく聞く話ですが、塩田さんとの出会いもまさにそのようなものだったのでした。

LAC会津磐梯

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LivingAnywhere Commons会津磐梯は「七ツ森」と呼ばれる磐梯山の麓のペンション村の一角にあり、以前はその村の管理事務所を兼ねた宿泊施設であったそうです。バブル崩壊とそれに続く人口の流出などによって、村の保有資産であるその建物及び正面に広がるグラウンドの使いみちがなくなっていたところを、LACの直営拠点として借り上げ、拠点としてオープンさせて蘇らせた、ということでした。

周囲を森と山と田畑に囲まれたこの場所は、身も蓋もないい方をしてしまうと「不便」な場所です。田んぼか畑でない場所は森で、森でない場所は田んぼか畑。所々に民家らしきものがぽつんぽつんと見える、そんな風景が見渡す限りどこまでも広がっています。その牧歌的な風景の中を、2両編成の列車が1時間に2回、汽笛を鳴らしてのんびりと走り抜けていきます。

最寄りのコンビニエンスストアまでは3kmほど離れていて、歩いていける距離ではありませんし、スーパーマーケットで買い物をしようと思えば隣町まで行かなければなりません。その「隣町」が、都会に住んでいる人間からするととても離れた場所にあって、車がないととてもじゃないけれど生活できない。

かろうじて走っている2両編成の電車と、一日に数本のコミュニティバス。公共の交通機関はそれだけで、だから僕のような車を持たない人間にとって、この場所はまさに「陸の孤島」と呼ぶにふさわしいものでした。

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事実、ここを訪れる前にいくばくかの人たちに「車がないと生活するのは難しいかもしれないよ」というささやかな忠告を受けていた僕ですが、その僕の想像を遥かに上回る「なにもなさ」がかえって新鮮で、すこし心を踊らせるようにしながら、LAC会津磐梯での生活が始まりました。

仕事場としての「LAC会津磐梯」

LivingAnywhere Commonsは、「生活の場」と「仕事の場」を一体に提供していることが特徴で、そこでの様々な出会いや交流が、全国各地にある拠点で過ごすことの醍醐味の一つであると言ってもいいでしょう。

ここ、会津磐梯の「仕事場」は、全面床板張りの、淡い色合いが周囲の自然にマッチしたとても広大な空間で、館内には高速のインターネットが施設されています。その空間に、贅沢な距離を保って並べられた4人がけ程度のテーブルが、いわゆる「デスク」となります。

「ソーシャル・ディスタンス」がニューノーマルとして叫ばれているこのご時世。隣の人との距離を十分に保つことができるこの広大な空間と、ここに住まう個性的な人々との物理的・心理的に程よい距離感での交流が、僕にある種の「安心感」を与えてくれていたのでした。

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人が多くなったときは、その広間に隣接しているテラスが仕事場になりました。むしろお天気がいい日は積極的にそのテラスに出て仕事をしていました。テラスの前に広がる緑の芝生の、元サッカー場として利用されていたその空間と、周囲に広がる緑の風景は、いやがおうでも作業の効率を上げてくれます。

視界に緑が入ってくることによって、人は適度なリラックス感を得ることができるといいます。集中して作業しているときも、視界の隅に、あるいはパソコンの画面の先に(後ろに)溢れんばかりの緑が広がっていることは、同時に集中力を高めてくれる効果があるようにも感じました。

施設の外に広がる緑の空間と、人と人との心地よい距離感。それらがもたらす心理的な安心感が、仕事のパフォーマンスに与えるポジティブな影響に気がつくまでに、そんなに長い時間はかかりませんでした。

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新しい時代の「職住近接」

決められたオフィスに決められた時間に出社し、そこでいわゆる所定の労働時間を過ごしたあと退勤する。新型コロナウイルス感染症が発生する以前、多くの人にとって仕事とは、その一連の行動の繰り返しのことを指していたのではないでしょうか。

それがこの感染症の影響で、みんな必ずしもオフィスに出社する必要がない事に気がついた。ストレスなく利用できるインターネット環境があって、コミュニケーションを円滑にするツールがあり、社内の情報が共有できるような仕組みがあれば、実際の体がオフィスになかったとしても、大部分の業務というのは完遂することができます。

では快適なWi-Fi環境が整っていて、コミュニケーションを円滑にするツールや情報共有の仕組みがあればそれで全てがOKなのか、と問われれば、答えは明らかにNoです。

そもそも人間は、オンタイムとオフタイムをはっきりと分けられるようにはできていません。生活の場としての安心感。つまりオフタイムにおける心理的な保全感もまた、日々の仕事に大きく影響する重要な要素の一つです。

高度に文明が発達した現代社会において、それがどれだけ大切なことだと分かっていても、狩猟・採集や農業生産を行う場が同時に生活の場でもあった私たち人類の長い歴史を考えれば、仕事の場と生活の場を完全に切り離して考えることは難しいのかも知れません。

それが、僕がここ会津磐梯の自然の中で気がつくことになった「生活することと仕事をすること」の密接な関係でした。

テクノロジーが発達し「リモートワーク」が可能になった今だからこそ、生活する場所と仕事をする場所が、互いに密接に関連しあっているという事実を再認識することになった。生活の場所が心地いいものであり、同時に仕事場としての理想の形を備えていることが、オン・オフ双方にとてもポジティブな効果をもたらすということ。

私たちの祖先が何万年という時間をかけて築き上げてきた働くことと住まうことの関係に、テクノロジーの進歩と「LivingAnywhere Commons」というアイディアが改めて気づかせてくれた、と言ったら少し大げさでしょうか?

自室から出て30秒で、理想の仕事場にたどり着ける居住空間がある。それが僕にとってのLivingAnywhere Commons会津磐梯でした。

LACの塩田さん

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生活の場としてのLACにおいて、LAC会員や利用者同士の関係や、地域との交流をオーガナイズしてくれるのが「コミュニティマネージャー」です。

下田でも、僕はコミュニティマネージャーの方に本当にお世話になりました。一人で所在なくぼんやりしているときに、いつもお声がけくださったのが、コミュニティマネージャーのお二人でした。そしてここ磐梯でも、蛯名さんとおっしゃる、とてもエネルギッシュな女性に終始お世話になりました。

自然が好きで、食べることが好きで、会津磐梯山が好きな蛯名さんはまさにこの「LAC会津磐梯」のコミュニティマネージャーになるために生まれてきたような人だ、というのが僕の率直な印象だったのですが、もうひとり、僕のここでの滞在をとても有意義なものに、そして印象深いものにしてくれたのが、冒頭で僕に声をかけてくれたという「LACの塩田さん」でした。

ワーケーションで東京からここに来られてすでに1ヶ月近く滞在しておられた塩田さんはLivingAnywhrere Commonsの関係者の方で、業務上とてもお世話になった方です。この時代のご多分に漏れず、塩田さんとのコミュニケーションはもっぱらZoomによっていたので、実際にお会いしてお話をするのは(ほぼ)初めてで、そしてこれもご多分に漏れず、「はじめましてなのに、初めてあった気がしない」のでした。

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ここには本当にたくさんの「地元の方」が出入りされるのですが、みなさん蛯名さんに会いに来られるのと同時にこの「塩田さん」に会いに来られているようでした。大学時代は飲食店で調理のアルバイトをしていたという塩田さんは、地元の人が持ってきてくれる「売り物にならない」食材を最高の料理に変身させる達人で、何より、この磐梯町が大好きなようでした。

そんな塩田さんを慕ってLACに集う地元の方が持ってきてくれる旬のお野菜や新鮮な食材。それらを使って彼が毎晩仕事が終わってから用意してくれる晩ごはんが、僕は楽しみで仕方がありませんでした。

一人暮らしを始めてから10数年がたちますが、3年半の海外での生活を除いて、僕は大抵の食事をコンビニのお弁当で済ませていました。だからこうやって、きちんとした生産者の人たちがこしらえたもので、きちんと調理されたものを頂くことができるというのが、なんだかとっても贅沢な感じがしたものです。

働くために最適化された環境があり、心理的安全性をもたらしてくれる生活の場があって、そこで地元人との、利用者同士の、温かい交流が日々繰り広げられている。

長い間旅をして、フィリピンという決して日本のように安全とはいい難い場所で2年半という時間を過ごし、そういう経験を長いことしてこなかった僕は、滞在が始まって程なく、この場所がちょっとだけ特別な場所になっていくのを感じたのでした。

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